あの天外魔境がスーパーファミコンに!
PCエンジンCD-ROM2から誕生した超大作RPG、天外魔境。ROMカセットでは不可能な大スケール、リッチな演出、デジタルサウンドの臨場感は衝撃的かつ、CD-ROMの可能性を世に知らしめました。続く天外魔境2で「CD-ROM用RPGの理想的終着点」と称される完成度に到達し、高い人気からシリーズ化へ。RPGファンの期待に応えスーパーファミコンに登場した天外魔境が本作、天外魔境ZEROです。
CD-ROM vs 特殊カセット
CD-ROMの大容量が成したRPGシリーズを、ROMカセットの小さな容量で如何に魅せるか?ココが焦点かつ勝負どころ。本作はスーパーファミコン用ソフトの中でも大容量な40Mbit(6MB)ROMを採用し、さらに圧縮技術を用いて「72Mbit相当」を実現。ROMカセットで可能な限りの容量を確保した姿勢に期待が膨らみます。また、時計機能を搭載して、ゲーム内容を現実の日時と連動させるPLGSなど、従来とは異なる遊びも本作ならでは。容量で不利な分を違った切り口で…良いじゃないですか、こういう挑戦。
RPGとして良好な仕上がり
重厚な楽曲とビジュアルで始まるオープニングデモは、CD-ROM用RPGを意識した作りで頑張ってます。ゲームは2D見下ろし画面&コマンドバトルの王道RPGスタイル。背景の二重スクロール、半透明、回転拡大縮小機能を使ったグラフィックがスーパーファミコンならでは。サウンド関係だとオープニングとマップの楽曲が好み、効果音はもう一頑張り欲しいところ。敵の出現率が高く少々面倒な反面、進行の障害になる事は無く。手堅い作りですね。
物語、キャラクターの見所はテンジン…要所で問いかけてくるクイズな台詞が興味深くて。終盤に入手する各キャラ最強の武器は全体攻撃に対応しており、ボタン連打で敵集団を一掃する「俺強ぇ!」が気持ち良くレベルアップが楽しい。エンディング直前のセーブ時点で全キャラレベル60、プレイ時間が23時間ちょっと。ラスボス戦からエンディングを含めれば、総プレイ時間は約25時間となります。大きな不満や問題点も無く終始安定かつスムーズな進行、戦闘バランスもライト傾向。しっかり楽しめました。
扱いが難しいPLGS
ゲームが現実の時間と連動するPLGSは本作最大の売り。タマゴを孵化させペットを育てたり、時刻に合わせて船の定期便が動き、商店は割引セールを実施。季節を絡め七夕やら祭りが開催されるなど、随所にPLGSを活かした仕掛けが用意されています。ただ、その殆どはゲーム進行に直接関与しないオマケ的な扱い。実際自分もPLGSはノータッチでクリアしました。一番の特徴をゲーム進行に絡めないのは勿体ないと思う一方、進行条件を現実の時間と連動させる煩わしさを考えれば、サブクエストに留めたのは正解と思えます。
本作をプレイして思ったのは、ストーリー主導型RPGでPLGSは活かし所が難しい印象を受けました。CD-ROMが無いスーパーファミコンで大容量とは違う土俵で勝負する…その手段をPLGSに託したとすれば、ゲーム本編のメインディッシュにPLGSが活かせないのは歯痒い。しかし、新しい試みを積極的に取り入れるチャレンジ精神は素晴らしいです。まさに、やらなきゃハドソン!
天外魔境1&2と比べてみると…?
筆者はPCエンジン版の天外魔境1&2をプレイしており、特に2はマイベストRPGの決定版と言えるほど好きな作品です。本作ZEROと1&2は制作スタッフもハードウェアも異なり、直接比較はナンセンス。しかし比べてしまうのが人間の性…ここからはPCエンジン版と比べた本作の印象を、率直に綴ってみたいと思います。
所々で天外魔境1〜2を彷彿とさせる要素が垣間見え、しかしどれも煮え切らず二番煎じの域を脱してない感が。特に残念なのはテキスト、台詞に魅力が乏しい事。町に居るモブキャラから主要キャラも含めて…バグった様な感嘆符連打のテキスト、このセンスは一体?スーパーファミコン用RPGなので対象年齢を下げた結果のテキストと推察しておりますが、そういう問題でも無い様な。本作のプレイで天外2の魅力溢れるテキスト、その素晴らしさを再認識させられました。
物量投入が可能なCD-ROM作品に比べると、映像面で見せ場のインパクトが弱いです。地味目な演出を補うためか、イベントでのキャラクター演技、戦闘時の魔法エフェクトなど、本作の演出は総じてオマケ一つ分長め…「派手さに欠ける分を時間で稼ぐ」的な。限られた容量で頑張っているのは解るのですが、一つ余計に引っ張り間延びしている印象です。
スーパーファミコンのゲームは、ライバル機種のゲームに比べ画面切り換えの暗転時間、サウンド発出など全体のレスポンスが緩慢な様で、本作も同様にスローレスポンス気味。常時キレの無いモッサリ動作に、長めの退屈演出が絡む体感速度低下は微妙にストレスを感じました。CD-ROMのロード待ちなら「(多少は)仕方がない」と割り切れますが、ノンアクセス&スピーディーのROMカセットで遅さを感じるのはどうなのかなと。
比べず素直に「普通」を楽しもう!!!
質も量も欲張り放題の贅沢コンテンツを、大きな器に目一杯ブチ込み、豪華絢爛なハッタリで畳み掛けてくる…カネと時間をジャブジャブ使った物量投入の極地、それが天外魔境というゲームであり、魅力、アイデンティティだと筆者は思っています。そう考えると本作ZEROは大分毛色が違う、もっと言えば、出来の良い和風RPGではあるけど天外魔境とは違う、そんな印象を受けました。
繰り返しになりますが、本作は普通に出来が良くプレイして損は無いです。でもね、天外魔境は普通じゃダメ、非常識で突き抜けた装いが有ってこそ天外魔境だろうと。天外2が好きなファンとしては譲れない思いってヤツ。なので、天外2経験者が本作を楽しむ時は2を意識せずピュアな気持ちで。素直に普通を楽しみましょう。